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綿を植えよう。

綿を植えよう。

「祖父」





わたしの祖父は、
わたしが生まれる20年前に死んだ。


顔も知らない
写真が一枚だけ残ってる。


ある日、
まだ生きてた頃の祖母が
高校生の私に言った。


「お母さんにも言ってない。
だから、黙っていておくれ。
お前のおじいさんは…わたしの夫は
自殺したんだよ」


何でそんなことを
娘でなく孫の私に言うのか
全く理解できなかったけれど
衝撃だった。

今は大人になったからわかる。
おばあちゃんは、誰かにそれを伝えておきたかったのだと。


祖父は昭和22年2月22日に死んだ。
その日を選んで死んだ。

きっとのちの世になっても
誰かが自分を思い出してくれるように…。

祖父の想いは
そのままちゃんと伝わって
わたしは嫌でもその日を忘れたことはない。

20年後の2月20日に生まれたわたし。

40の齢を重ねるにしたがって
会えなかった祖父に思いをめぐらすことが増えた。


それは
自分が同じように苦しく
ものごとを受け止めとらえてしまう性質だということを
自覚したからかもしれなかった。

あなたはどんなふうにつらかったの?
死んでしまうほどに苦しかったの?

そんなふうに
わたしよりも若い祖父に問いかける。


あなたの苦しい思いが
わたしの心の中に
燃えかすとして残っているのなら…

何とかあなたを楽な気持ちにしてあげたい。

そう思う。

あなたの生きられなかった世の中を
一生懸命に楽しく生きてみたい。
あなたの分まで。

だって
孫が苦しむのをのぞんでるおじいちゃんはいない。




おばあちゃんとの約束だったから
誰にも言わずに過ごしてきた。

それなりにわたしも苦しかった。


「はと急便」があるなら届けたい。


わたしよりずっと若かった祖父へ
メッセージを届けたい…。




ほんとは生きててほしかったよ、と。










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